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被相続人が亡くなり、相続人同士で相続財産(遺産)の分配を行うことを、遺産分割と言います。
被相続人が遺言書を残していれば、遺言書の内容に沿って相続を行うのが原則です。
しかし、遺言書が作成されていなければ、相続人同士で遺産分割を行うこととなります。
今回のコラムでは、遺言書が作成されていない場合を前提に、遺産分割の手続の流れについてご説明させていただきます。
1 相続調査
最初にやらなければならないのは、相続調査です。
相続調査には、主に相続人調査・相続財産調査・負債の調査があります。
相続人調査とは、相続人が誰であるかを確定するための調査です。
被相続人および相続人の戸籍謄本類を収集することで、相続人全員を特定します。
相続財産調査とは、被相続人の相続財産(遺産)の内容の調査です。
被相続人の遺産については、被相続人と同居していた相続人等が遺産の内容を把握している、遺族による遺品整理の際に発見される、被相続人宛ての郵便物から判明する、ということも多いでしょう。
また、例えば、預貯金については、被相続人の生活圏内にある主要な金融機関に名寄せ(残高証明書の交付)を申請することで、その金融機関の全支店に対して預貯金の調査をすることが可能です。
不動産については、被相続人の所有不動産がありそうな市区町村の役場に名寄帳の交付を申請することで、その市区町村内の不動産すべてを確認することが可能です。
負債の調査とは、被相続人の負債(借金)の有無・内容の調査です。
口座引き落としの履歴、金融機関・貸金業者からの郵便物によって、負債の存在が発見されることもあります。
また、信用情報機関(JICC・CIC・全国銀行個人信用情報センター)に信用情報の開示を請求することで、金融機関・貸金業者との取引状況を網羅的に把握することが可能です。
もし相続財産(遺産)よりも負債(借金)の方が多いのであれば、相続放棄を行うことも視野に入れることになるでしょう。
このような相続調査に漏れがあれば、相続人同士で遺産分割の取り決めをしても、後々、取り決めたことが無効となったり、遺産分割の話し合いをやり直さなければならなくなったりすることもありますので、注意が必要です。
また、相続調査には相当の手間がかかることも少なくありませんので、確実・迅速にすすめるためには、弁護士に相続調査をご依頼されることもご検討いただくとよいでしょう。
2 遺産分割協議
相続調査が終われば、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議とは、遺産分割について相続人同士で話し合いを行うことです。
遺産分割協議は、家庭裁判所で相続放棄の手続を行った相続人を除いて、必ず相続人全員で行わなければならないのが基本です。
相続人の一部を除いて遺産分割協議を成立させても、取り決めたことが無効となってしまいます。
遺産分割協議で相続人同士の話し合いがまとまれば、取り決めた内容を記載した遺産分割協議書を作成し、それに基づいて相続を行うことになります。
ここで、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないというのは、遺産分割協議書に相続人全員がサインする必要があるという意味であり、必ずしも話し合いの席において一堂に会する必要があるということではありません。
遺産分割協議書に相続人全員が持ち回りでサインする形なども認められています。
遺産分割協議は、後述する遺産分割調停や遺産分割審判とは異なり、家庭裁判所を通さずに任意の話し合いで成立する手続であるため、迅速な解決が期待できることが多いと言えます。
しかし、相続人同士の仲が元々良くないであるとか、相続人の誰かが理不尽な要求を通そうとするなどして、相続人同士が感情的に対立すると、相続争いが長期化・泥沼化してしまうこともあります。
遺産分割協議の際に揉める可能性が高いケースとしては、①相続人同士の仲が悪い場合、②相続人同士の関係が希薄であり、長年交流がない場合、③相続人の一部が、生前から被相続人と結託している場合、④被相続人が愛人、宗教関係者、第三者に取り込まれていた場合、⑤異母/異父兄弟姉妹がいる場合などがあります。
遺産の分配を各相続人がどのような割合で受け取るかについては、法定相続分(法律で定められた相続の割合)が基準としてありますが、相続人同士で合意できるのであれば、法定相続分とは異なる割合で分配を行っても構いません。
実際の遺産分割協議では、遺産の内容・性質、生前の事情、各相続人の意向などによって、遺産分割の割合・金額を調整する必要があることも多々あります。
遺産分割の割合・金額が争いとなる場合には、遺産分割調停に発展する可能性も見据えて、客観的な証拠の収集と説得力のある主張の構成がポイントとなるでしょう。
また、相続人同士で取得を希望する遺産(不動産など)が競合する場合にも、実情を踏まえてしっかりと話し合いをし、解決していかなければなりません。
遺産分割協議について相続人同士で揉めている場合や、遺産分割協議をご自身だけで進めることに不安がある場合には、専門家である弁護士に対応をご相談いただくことをお勧めいたします。
3 遺産分割調停
遺産分割協議で合意に至らなかった場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることとなります。
遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が仲介し、相続人同士での遺産分割の話し合いが行われます。
遺産分割調停についても、基本的に相続人全員が当事者となる必要があることは同様です。
そのため、遺産分割調停は、相続人の1人または複数人が残りの相続人全員を相手方として申し立てることで開始します。
そして、遺産分割調停は、家庭裁判所で1か月ないし1か月半に1回程度行われ、調停委員が仲介者として話し合いのあっ旋をしてくれます。
そのうえで、遺産分割調停で話し合いがまとまれば、取り決めた内容を記載した調停調書が裁判所から発行され、それに基づいて相続を行うこととなります。
遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が話し合いを仲介してくれますが、ご自身にとって有利なように肩入れしてくれるというわけではありません。
調停委員としては、もちろん当事者全員の言い分を聞いてはくれるのですが、法令に照らして筋の通らない主張や、証拠による裏付けのない主張については、基本的には採用してくれません。
なぜなら、そのような主張を通してしまうと、中立公平を旨とする家庭裁判所の立場に反することになるからです。
そのため、遺産分割調停を有利に進めるためには、必要な証拠を提出し、適切な主張を組み立てることによって、調停委員の納得を得るということが非常に重要になってきます。
その際には、後述する遺産分割審判に移行することも想定して、主張を組み立てていくことがポイントです。
遺産分割調停では、ご自身のご判断だけで手続に対応することには、多くの困難を伴うのが通常です。
遺産分割調停を申し立てる場合、あるいは他の相続人から遺産分割調停を起こされた場合には、まずは遺産分割に詳しい弁護士に対応ご相談いただくのがよいでしょう。
そして、ご自身で対応するのが不安であるという場合には、弁護士にご依頼されることをお勧めいたします。
4 遺産分割審判
遺産分割調停での話し合いがまとまらなかった場合には、自動的に遺産分割審判の手続へ移行します。
遺産分割審判では、裁判官が当事者(各相続人)の主張を聞いたうえで、法令と証拠に照らして審判(遺産の分配に関する判断)を下します。
裁判官が下した審判に不服がある場合には、2週間以内に抗告(不服申立て)を行う必要があります。
2週間以内に抗告が申し立てられなければ、審判が確定します。
そして、審判が確定したときは、その内容に基づいて相続を行うこととなります。
5 訴訟
相続人の範囲、相続財産(遺産の範囲)、遺言書の有効性など、遺産分割を行うに当たっての前提となる事項に争いがある場合には、すぐに遺産分割を進めることができません。
遺産分割に先立って、これらの前提事項をまずは確定しなければなりません。
これらの前提事項について相続人間で話し合っても解決できない場合には、訴訟(裁判)を提起して前提事項の確定を求めることとなります。
これらの前提事項に関する訴訟(裁判)の手続の流れ、訴訟(裁判)を提起した場合に想定される結果などについては、専門家である弁護士にご相談いただくとよいでしょう。
また、訴訟(裁判)の手続は非常に複雑・専門的なものであるため、実際に訴訟(裁判)を提起する場合、あるいは他の相続人から訴訟(裁判)を起こされた場合には、弁護士にご依頼いただくことをお勧めいたします。
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(弁護士・木村哲也)