1 過失相殺・過失割合とは?

交通事故は、加害者だけに一方的な過失(落ち度)がある事故ばかりではなく、被害者にも一定の過失がある事故も少なくありません。

過失相殺とは、損害賠償において、被害者側の過失割合分を減額して賠償することを言います。
そして、過失割合とは、被害者と加害者の過失の比率のことです。

例えば、被害者と加害者の過失割合が被害者20:加害者80の場合、被害者は加害者に対し、被害者が被った損害のうち20%を差し引いた80%分しか賠償請求できません。
なお、逆に、加害者も被害者に対し、加害者が被った損害のうち20%分を賠償請求できるということになります。

2 過失割合はどのようにして決まるのか?

過失割合をどのようにして決めるのか?という問題があります。

この点、実務上、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(判例タイムズ社)という書籍が参照されるのが通常です。
この書籍では、様々な事故類型において、過失割合をどのように認定するか?という基準が解説されています。

ただし、この書籍に記載されるどの事故類型にも該当しないケース、この書籍に記載のある基準の解釈・適用に争いがあるケース、事故状況自体に争いのあるケースなどもあります。
このような場合には、この書籍を参照しさえすれば過失割合の問題が解決する、というわけにはいきません。

この書籍に記載のある事故類型に該当しないケースでは、類似する事故状況について過失割合を判断した裁判例を調査するなど、適正な過失割合を検討する必要があります。
また、事故状況に争いがあるケースでは、後述する事故状況の立証方法が問題となります。

保険会社から提示された過失割合に納得できないという方もいらっしゃるかもしれません。
過失割合は保険会社が一方的に決めるものではなく、弁護士が根拠を示しながら交渉することにより納得できる解決ができるかもしれません。
任意の交渉による解決が難しければ、裁判を提起して解決を求めることとなり、裁判では当事者の主張と提出証拠をもとに裁判官が過失割合を判断します。

3 事故状況の立証方法

事故状況に争いがある場合には、事故状況の立証方法が問題となります。
事故状況の立証方法としては、以下のようなものが考えられます。

①刑事記録
人身事故の場合には、略式命令を含む起訴がされた事案では実況見分調書(現場および事故の状況を記録したもの)や供述調書(事故関係者の供述内容を記録したもの)などの刑事記録、不起訴の事案では弁護士法23条の2に基づく照会により実況見分調書に限り入手することができます。
物損事故の場合には、弁護士法23条の2に基づく照会により物件事故報告書の記載内容(事故状況に関する当事者の説明内容など)を確認することができます。

②防犯カメラの映像
コンビニやスーパーなどの店舗駐車場の事故では、店舗の防犯カメラに事故状況が映っているケースがあります。

③ドライブレコーダーの映像
事故車両のドライブレコーダーの映像から、事故状況を裏付けられるケースもあります。

④アジャスターの意見書
事故車両の損傷状況などから、アジャスター(自動車の損害調査を専門とする保険会社のスタッフ)が事故状況を推定可能なケースもあります。
アジャスターの意見書が事故状況を認定する有力な証拠となることもあります。

⑤第三者の目撃証言
事故当時者と無関係の第三者の目撃証拠は、事故状況を立証する有力な証拠となり得ます。
ただし、当事者自身の供述、同乗者や家族・親族などの証言は、中立性に疑問ありとしてあまり重視はされないのが通常です。

4 物損(物的損害)の示談における過失割合と人損(人身損害)の賠償における過失割合

交通事故の被害に遭った時に、車両の損傷などの物損(物的損害)と人損(人身損害)が同時に発生するケースも多いです。
そして、交通事故による怪我の治療が長期化することも少なくないため、物損の示談が人損よりも先に行われることも多いです。
この場合、物損の示談の際に前提となった過失割合が、人身の賠償においてもそのまま適用されるか?という問題があります。

この点、物損の示談における過失割合が、人損の賠償においてそのまま適用されるとは限りません。

物損は人損と比べれば損害額が少額であることが多く、車両の修理や買替などを早く済ませ、早期解決するという要請があります。
そのような要請から、被害者に一定の過失が認められる場合でも、物損については過失相殺をせずに、早々に示談処理が行われることも少なくありません。
そのような実情から、物損の示談における過失割合は、人身の賠償における拘束力を持たないものと考えられています。

そのため、事故状況いかんにより、物損の示談の際に前提とされた過失割合とは異なる割合を、人身の賠償においては受け入れざるを得ないケースもあります。
なお、自社の自動車保険の人身傷害保険の適用が可能であれば、過失相殺分について人身傷害保険で填補してもらうことが可能です。

5 弁護士にご相談ください

過失相殺・過失割合の問題を弁護士にご相談・ご依頼いただけば、過失相殺・過失割合に関する争いを適正に解決することができる、事故状況の適切な立証方法を検討・実行することができる、示談交渉・裁判など面倒な手続の対応を弁護士に一任することができる、などのメリットがあります。

青森シティ法律事務所では、交通事故の過失相殺・過失割合に関するご相談・ご依頼を多数お受けしております。
過失相殺・過失割合についてお困りの方がいらっしゃいましたら、お気軽に青森シティ法律事務所にご相談いただければと存じます。

(弁護士・木村哲也)

当事務所の弁護士が書いたコラムです。

NO
年月日
コラム
46 R7.10.6 【交通事故】過失相殺・過失割合について
45 R7.9.4 顧問契約について
44 R7.8.5 自己破産をしても手元に残せる財産
43 R7.7.8 遺産分割における寄与分
42 R7.5.29 離婚するにはどのような理由が必要か?
41 R7.5.8 【交通事故】物損事故について
40 R7.4.7 クレーム対応を弁護士に依頼するメリット
39 R7.3.10 消滅時効の援用
38 R7.2.14 遺産分割における特別受益
37 R7.1.14 性格の不一致による離婚
36 R6.12.20 交通事故による腰部痛
35 R6.11.20 契約書のチェック・作成を弁護士に依頼するメリット
34 R6.10.23 任意整理の使いどころと落とし穴
33 R6.9.20 相続における預金について
32 R6.8.20 不倫・浮気の被害による離婚
31 R6.7.3 交通事故によるむち打ち
30 R6.6.6 未収金トラブルを発生させないための対策
29 R6.5.8 小規模個人再生と給与所得者等再生
28 R6.4.2 相続における不動産
27 R6.2.14 モラルハラスメント(モラハラ)の被害による離婚
26 R5.12.7 交通事故による脊髄損傷
25 R5.11.1 企業・法人が従業員を解雇する際の注意点
24 R5.10.26 自己破産における免責不許可事由
23 R5.10.16 相続争いを予防するための遺言書の作成
22 R5.9.27 DV(暴力)の被害による離婚
21 R5.9.6 交通事故による骨折
20 R5.8.17 企業・法人におけるクレーム対応のポイント
19 R5.7.18 借金・債務整理において任意整理を選択すべきケース
18 R5.7.5 借金を相続しないための相続放棄
17 R5.6.20 離婚における慰謝料
16 R5.6.5 交通事故による高次脳機能障害
15 R5.5.18 企業・法人における売掛金の債権回収の方法
14 R5.3.8 ローン返済中の住宅を維持したままの民事再生(個人再生)
13 R5.2.13 相続における遺留分と遺留分侵害額請求の制度
12 R5.1.18 離婚における財産分与
11 R4.12.27 死亡事故における損害賠償請求のポイント
10 R4.12.6 企業・法人における契約書作成のポイント
9 R4.11.14 自己破産の同時廃止事件と管財事件
8 R4.10.24 遺産分割の問題は早めに解決しましょう。
7 R4.9.27 離婚とお金の問題について(財産分与・慰謝料・婚姻費用・年金分割)
6 R4.9.12 交通事故における後遺障害等級の認定手続について
5 R4.8.29 企業・法人における問題社員対応の注意点
4 R4.8.22 借金・債務整理の手続について
3 R4.8.8 遺産分割の手続の流れ
2 R4.8.1 離婚と子どもの問題について(親権・養育費・面会交流)
1 R4.7.14 交通事故の被害に遭った時の対応で気を付けてほしいポイント